新型コロナウィルスの報道を見ていると、以前のSARSやMERSの時とは明らかに異なることを感じます。それは、”情報の多様さ”です。時代の変化を痛感します。
以前は、テレビ、新聞だけでしたが、SNSによる情報も多くなりました。そして、今回痛感することは、Youtubeなどの情報です。時代を追うと、こんな感じでしょうか。
その昔は、
- A:テレビ、新聞のみ。
SARS、MERSの時代は
- A:テレビ、新聞のしっかり情報
- B:SNSの単発情報
今回の新型コロナでは
- A:テレビ、新聞のしっかり(?)情報
- B:SNSの単発情報
- C:Youtubeなどのしっかり情報
今を生きる我々は、実に多様な情報に触れることが出来ています。これは、ある意味、幸せなことだと思います。今回の新型コロナで一番驚いたことは、テレビ、新聞情報の相対化ではないでしょうか。要するに、Youtubeでの様々な立場の専門家による情報提供で、テレビ、新聞報道を客観的に見ることができるようになりました。どちらが、正しいということではなくて、それぞれのメディアの特徴を理解して、何をどこまで信じるのか、自分の行動の元となる情報の材料が増えたということです。でも、これは一方で、高い情報リテラシーが求められる時代になったと言えます。
テレビ、新聞報道の特徴 「誰でも分かるように編集」
Youtube,AbemaTVなどによる様々な専門家(様々な専門家というのが、結構大事です。後述)から多くの情報が流されることによって、テレビ、新聞報道で得られる情報の特徴が見えて来ました。メディア論みたいな学問で勉強する程度でしたが、今回は実感しました。更に、スポンサー問題については今回の主題ではないので触れません。
テレビ、新聞報道は、「誰にでも分かるように編集されている。」新型コロナの話では、一定、医学、免疫学等自然科学の分野の理解が必要ですし、何かのデータについての扱いは数理モデル、簡単に言えば数式による評価が存在しています。
今回で言えば、なぜ、簡易検査を行わないのか?というところが象徴的でしょうか。背景には、検査の限界(要するに、検査ミスが起こる)と共に、理論上では統計学の基本(高校数学で言う条件付き確率、ベイズの定理)が関係します。
この点については、テレビ、新聞報道では触れられません。触れられないどころか、検査数を増やす方向性で報道されていました。
一方で、Youtubeなどでは、統計学の専門家が「なぜ、一般人向けに検査を増やすべきでないのか?」を説明し、広いところでは、教育系youtuberが条件付き確率の説明と今回の新型コロナウィルスの検査とを関連付けて説明をしていました。
テレビ、新聞では、背景にある理論や専門家の実務に関わる部分まで触れません。政治家の発言もそうです。現象を、政治的に、社会学的(相当簡略化)に説明をしますが、理論が欠如しているわけです。
案外、生きていて、理解が難しい事柄って多いと思うわけです。その部分を、テレビ、新聞の報道する側が、「分かりやすく」編集をしているわけです。これをどう思うか?というのが今回見えて来た課題だと思っています。
新たな課題 ”専門家が直接語るナマ情報を理解する力”
Youtubeでは、様々な専門家や知識層の方々が情報提供をしています。どれも、それぞれのお立場で、真剣に情報提供されているわけです。テレビとは違い、それなりに専門性も高いわけです。 (胡散臭いかどうかは見れば分かるという前提です。)
ある意味、それぞれの立場で本気で出される情報ですから、受け取る我々にもスキルが求められます。最近、小学校から今まで学んだことが、こういったマジな報道、情報提供を理解する上で、生きてるな!!と思うことが多々あります。
要するに、
テレビ・新聞は、各専門分野から得た様々な事実を、分かりやすく編集した情報を提供しているわけで、今まではその情報を理解することが大事でした。
しかし、今はそれぞれの専門分野のエキスパートや知識を膨大に扱う人々が、ナマで直接私たちに提供する情報を理解することが大事になったわけです。
新たな課題 ”専門家によって、視点が全く異なる”
更に、専門家がそれぞれの立場で本気で主張しているので、逆に言えば、どれが正しいか?の判断は極めて困難になります。というか、どれが正しいという考え方も成立しないこともあり得るでしょう。世の中本当に複雑なんですよね。正義か悪かといった二項対立では表現仕切れないことだらけです。様々な情報から、自分の行動を決める情報を選んで組み合わせて行かなければなりません。
新型コロナウィルスで私がなるほどと思った主張をちょっと紹介します。
- インフルエンザの方が、多くの人々が亡くなっているのに、新型コロナウィルスで騒ぐことはおかしい。
- x=C^α*R^β*tの数式に基づいて、感染者数を算出している。Cは感染者の初期数値、Rは一人の患者が何人に感染させるかの定数で、今はRを減らすことが最善の策である。したがって、自粛を要請している。
- 簡易検査を行い、疑わしい人間が病院に押し寄せれば、重篤患者への治療が出来なくなる。簡易検査は、クラスターなどの集団感染が疑われる場面では有効だが、一般人向けに行うことは医療制度崩壊を招く。
- ウィルスの致死率ではなく、死亡率を下げることが最も重要。医療制度を崩壊させることなく、重篤患者をきちんと治療できる体制を維持すべき。そのために、ピーク数を上げないようにしている。一方、ピーク時を下げるということは、すなわち、収束期間を長引かせることになる。
- 収束には時間がかかる。新型コロナの感染力がインフルエンザに近いということは、社会が今のインフルエンザを受け入れた状態、つまり、ワクチンが開発されて毎年の出来事のようになるということ。
テレビで大枠を掴み、SNSは視点獲得、Youtubeで背景を学ぶ
タイトルにも書きましたが、今回、インフォデミックという言葉をWHOが使いました。 Infodemicは、Information Epidemic を省略したものです。
言葉の定義は、「 正しい情報と不確かな情報が混じり合い、人々の不安や恐怖をあおる形で増幅・拡散され、信頼すべき情報が見つけにくくなるある種の混乱状態 」です。ウィルスだけでなく、情報の感染も予防しなければ!という意図ですね。
どうやって信頼する情報を見つけるか?というよりは、騙されないで、どうやって自分の行動を決める情報を自分で作り出すか?が大事だと思います。それぞれの情報ソースには、嘘も誠も存在しています。
多様性を担保しながら、次の方法がいいのではないか?と思うのです。
- テレビ、新聞で大枠を掴む。(嘘は少ない、誰でも分かる情報ソース)
- SNSは、視点を得る程度。(嘘が多いし、根拠が乏しいので鵜呑み厳禁)
- Youtubeで背景を学ぶ。(これは勉強が必要、今後の情報リテラシーの要)
こうやって、自分なりの情報を構築して、行動を決めていけば、インフォデミックに左右されないと思うのです。
今回の新型コロナウィルスの様々な対応において、例えば、私にとっては次の式
x=C^α*R^β*t (xは予想患者数、Cが初期感染者数、Rが一人当たりが感染させる人数)
を知って(というか、式としては超当たり前でα、βをどう評価するかのほうが重要)
例えば、中国からの入国者をもっと速く制限すべきだった!という専門家の意見は、なるほどと思えるし、この記事を書いている現在は東京都は小池知事が自粛を強く訴えていますが、これもRを増やさないことで納得ができます。
一方で、経済への影響などを考えたとき、毎年流行するインフルエンザの死亡数の方が、新型コロナよりもはるかに大きいのに!という主張もうなずける。しかし、イタリアやアメリカの現在の状況を見ると、感染力がインフルエンザ並みで、致死率がSARA並みという知識からすれば、上の数式を理解し、級数的に増える状況の前である今の段階できちんと抑え込む必要があるとも考えられるわけです。
本当に、情報と知識が重要な社会に生きていると思います。様々な情報を理解し、総合して自分の立場で取るべき行動を決めて行く必要があるのです。